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フェチ(32)

彼を受け入れたことで、僕の気持ちに変化が表れた。
少しでも長くいたいと思ったし、顔を見れない時間が長く感じるようになった。
そんな変化を他の女性社員は見逃さなかった。
「塚本さん、最近綺麗になったわね」
「社長と何かあったでしょ?」
そんなことを多くの女性から言われた(男性からはまったくなかった)。
そんなとき僕は特に肯定も否定もせず笑顔を返すことにしていた。
何を言っても女性は自分の感じたことを信じるものだ。
そしてそれは当たっているのだから、僕が何も言う必要はない。
一度抱かれてからは、僕たちはデートの後はホテルに行くようになった。
そしてその場所がホテルではなく、彼の家になるのにそれほどの時間はかからなかった。
そうなると、そのまま彼とともに一夜を過ごす。
すなわち彼の家から出勤するようになる日が多くなった。
「一緒に暮らさないか?」
彼のそんな言葉を、何の抵抗もなく受け入れた。
こうして同棲生活が始まったのだ。

同棲し出すと、自分の男の部分が本当に気になった。
そんなことが彼に気づかれると、二人の関係は終わってしまうと思っていた。
だから毎晩のようにお風呂でムダ毛を処理した。
それでも朝になれば髭がうっすらと目立つようになる。
絶対に彼より早く起きて、隠れて浴室で髭を剃った。
そんなことを長く続けるのは精神的にかなりきつかった。

同棲して1ヶ月になろうとするある日、僕が起きたのは彼がすでに起きた後だった。
しまった。
起きてすぐ顎に触れると、少しザラザラしたものを感じた。
「おはよう。疲れてるみたいだから、もう少し寝てていいよ。会社には少し遅れてきてくれればいいから」
彼のそんな優しい一言に、緊張してカチカチになった僕の気持ちが崩壊した。
僕の両目からは信じられないくらいの涙が流れ出した。
「ど…どうした?何か悪いこと言ったか?」
僕は言葉が出ず、首を横に振るだけだった。
彼は黙って僕は抱きしめてくれた。
僕は彼の腕の中で全身から水分がなくなるかというほど泣いた。
「ごめんなさい」
ようやく話せるようになると自分がこれまで早起きしてやってきたことを話した。
「そうだったんだ。朝早くから食事の支度を頑張ってくれてるくらいしか考えてなかった」
「…ごめんなさい」
「直美が謝ることじゃない。僕はそんなことを気にしないことをちゃんと伝えておけばよかったんだ」
「でも…」
「そんなに気になるんだったら、永久脱毛でもしてもらえばいい」
「それも考えたんだけど…」
「けど?」
「女性ホルモンを摂るのがいいのかなって…」
「…そうか。実は直美が性同一性障害じゃないって聞く前に、南のやつから連絡があったんだ。直美は性同一性障害とは言えないけど、そのうち女性ホルモンとか摂りたくなるかもしれないって。でも素人判断で女性ホルモンを摂るのは危険だから、どうしてもってことになったら、必ず自分のところに行くように言ってくれって」
「…そうだったんだ……」
「女性ホルモンってやめれば、元通りになるって思ってるやつが多いけど、決してそうじゃないって。だから、本当に覚悟ができたんじゃなければ、絶対にやめた方がいいって君に言ってくれとも言われた」
「うん、ちょっと考えてみるわ。ありがとう」
「絶対にお前が無理強いするんじゃないぞとも言われた」
そう言って彼は笑った。

結局僕は女性ホルモンを打ってもらうことにした。
彼の前では少しでも女性でいたいから。
南先生からは彼以上に厳しいことを言われた。
それでも僕は自分の意思を変えることはなかった。
「結局こうなると思ってたよ」
最後は南先生もこう言って女性ホルモンを処方してくれた。

女性ホルモンを摂るようになってから、自分の肌が変わってくるのが実感できた。
それは本当に喜びだった。
こんなことだったら、もっと早く打ってもらえばよかったとすら思った。
そして胸にわずかではあるが隆起が生まれたときは喜びとともに恥ずかしさを感じた。
自分にできた膨らみにブラジャーをしたときは自分が女性になれたような気さえした。
そしてそこに彼の手が重なったときは気も狂わんばかりに感じた。

女性ホルモンを打つことで、筋肉が落ち、脂肪ができてくると、僕は自らの体型維持に最大の注意を払うようになった。
特に脚。
最高に後ろ姿がかっこいい女性になりたい。
智美さんのように。
そして昔から自分が理想としていた女性のように。

そんな努力の甲斐あって、かなりかっこいいふくらはぎになったと思う。
キュッと絞られた足首には色気すらあると思っている。
さすがにそれは贔屓目すぎるのかもしれないが。

女性ホルモンが身体の隅々に影響を及ぼすと、僕は自分のことを、より女性として認識するようになった。
自分の後ろ姿に男性陣の強い視線を感じると、本当に楽しくなってくる。

僕は社長の目を盗んで、他の男性と食事くらいのデートをすることもあった。
決して浮気をすることが目的ではない。
目の前の男が僕を値踏みしている様子を見ることで、自分が魅力的な女性に見えることを実感できるのが嬉しかったのだ。
僕は確実に魅力的な女性に近づいている。
そう実感できるのだ。

それに彼だって、時々他の誰かと自分の欲求を発散しているのだ。
一緒に暮らしていれば、そんなことにはすぐに気がつく。
それでも僕は何も言わなかった。
彼が僕を愛してくれているのは間違いないと思っているからだ。


彼に愛されている自信はあるのだが、性別適合手術はまだ決心できていない。
彼はまったくそんな話はしない。
でも彼とのセックスの前に、あの部分を綺麗にすることを思うと、いつかは手術を受けるようになるかなくらいは考える。
慌てることはない。
彼と僕は強い愛で結ばれているのだから。


僕はミニのフレアスカートを穿いて颯爽と歩いている。
男たちの視線を楽しみながら。
単なるフェチだったはずが、自分の身体をここまで変えることになってしまった。
今から思うと僕のフェチは自分への願望だったように思う。
すなわち僕は自分の願望を体現したのだ。

今日もお気に入りのフレアスカートを穿いて街を歩く。
ハイヒールの音を響かせながら。


《完》
-----
沙亜矢です。
後書きです。

ついに「フェチ」を終わらせました。
ちなみに、この話の主人公の設定はマジで私の性癖です。
書いている途中、というか、「フェチ(31)」を書いた時点では性転換までさせるつもりでした。
でも、「フェチ(31)」から時間がかかったのは性転換させるとどういうわけかしっくりこなかったのです。
性転換までしなくても、素晴らしい女性(?)だっているはず。
女性の姿になってなくたって、心に女性性を強く持っている人もいるんだし。
そんなことを考えるようになって、こういう中途半端なエンディングでもいいんじゃないかって思うようになりました。
長い時間かかってこの結末か…と思われる方もいらっしゃると思います。
あくまでも作品はそのときそのときの私の価値観に左右されるものですので、何卒ご容赦くださいませ。

ご存知の通り、私は以前のように、小説を書く時間がなかなか取れないようになってます。
それは物理的な制約というよりも、精神的なものであることは否めません。
それでもこうして書き終えるとまた次の作品を書きたくなります。
まるでフルマラソンを走っている間は「二度とこんなつらいことはしないぞ」と考え、ゴールした途端「また次だ!」と考えるような感じでしょうか。

ということで、遅筆で申し訳ありませんが、そのうち次の作品に手をつけます。
とりあえずは3年前にちょっと書いた「虐めの復讐」です。
これは最初の思いつきだけで書き始めた作品で、まったく展開は考えてません。
どんな筋にするかはこれから考えます。
それでもなんとか続きを書こうと思ってます。
あまり期待せずにお待ちください。

この「フェチ」の続きを考えていたせいで、強制女性化妄想の間が空いてしまいました。
申し訳ありません。
強制女性化妄想では途中まで書いている作品は複数あるのですが、うまくエンディングが書けてない作品ばかりです。
すでに掲載している作品にもエンディングがうまく書けてないものが多数あるのですが(笑)、今書きかけのものはそれ以前の状態です。
何かのきっかけでパパッと掲載が続くかもしれませんので、気長にお待ちください。

読者の皆さまの優しさに甘えてばかりの私ですが、今後ともよろしくお願いいたします。
20:47 | フェチ | comments (3) | trackbacks (0) | page top↑
虐めの復讐(3) | top | あけましておめでとうございます

コメント

#お疲れ様です
フェチ完結おめでとうございます。
流石に一気にSRSまでは行きませんか……^^

とはいえ、女性ホルモン投与もある意味『片道切符』ですからねぇ……。長期間続けると精巣の機能が失われるので。
そのせいもあって、一度始めたら途中で止めると『更年期障害』と同じような状況になるそうです。
まあ、直美ちゃんはその辺は覚悟して始めたみたいだから心配要らないかしらね^^

P.S.
その内に、SRSも受けて戸籍も『♀』に書き換える日が来るんでしょうねぇ……。
そうなったら、社長さんと本当に結婚できるわよ……。ね?だから早くやっちゃいましょ……?(悪魔の囁き
by: 藍 | 2018/01/21 18:47 | URL [編集] | page top↑
#
完結お疲れ様です。
やっぱり、個人的には男性に愛されるラストは自分を重ねて、いいなーって気持ちになっちゃいます。
これからも沙亜矢さんの思うままに書いてくださいね。
応援してるし、こっそり待ってますー
by: 優菜 | 2018/01/23 01:12 | URL [編集] | page top↑
#
最終的に性転換手術まではしないで完結は良いですね。読者の中で続きのストーリーが浮かんでくるっていうのも面白いことですよね。僕がこの主人公の直美だったら、社長にちゃんと女の子としての自分の身体を愛してほしいので、性転換手術は早いうちにしてしまって、少しでも早く社長に愛してほしいので、社長の男性器を使ってダイレーションしてもらいますよ。
by: コウ | 2018/02/06 01:05 | URL [編集] | page top↑

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