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フェチ(30)

「直美さん、今日はお待ちかねの診断結果をお話します」
やっと女の子になる一歩を踏み出せるのだ。
後戻りのできない一歩を踏み出すことへの不安がないと言えば嘘になる。
それ以上に僕は期待に胸を膨らませていた。
しかし南先生が言った言葉は想定していない言葉だった。
「残念ながら性同一性障害と診断することはできませんでした」
えっ、どうして?
完璧な話ができたはずなのに。

「直美さんの話は確かによくできてたんだけど、何度も話をうかがっていると、少しずつ本当の心が見えてきたんですよ。まあそのために何度も同じような話をしていただいたんですけどね。直美さんは基本的にはご自分の性にあまり違和感を感じられていないと思いました。確かに女性の服装をしているのがお好きなようですが、身体にメスを入れることはあまり想定されてませんよね?」
「…」
否定できなかった。
「直美さんが話した学生時代の恋愛話はあまり具体的なことまで突っ込まれた話をされなかったので、本当かどうか怪しいと思いました。おそらく北原のことを好きになったのが、初めて男性を好きになったときじゃないかな?北原のことを好きになったのは、ご自分のことを女性として扱ってくれるからだと思うだけど違うかな?」
「ええ、まあ、そういう面は否定できないかも…」
「でも北原に愛されるために女性になりたいってわけではないようにも思えました。直美さんにとって、ご自分が綺麗になることが一番の関心事ですよね?ある意味、とても女性をリスペクトされている。女性を好きになるとともにご自身も女性のように綺麗になりたいと考えられた。そこにはご自身の性に関する違和感はないように思えました。男のまま女性の美を追求できると信じられているのではないでしょうか?」
そういうふうに言われると、そんな気がする。
そもそも女性の身体になりたいと思ったのは、あの夜のときが初めてだった。
男どうしで愛し合うことに違和感があった。
だから僕が女性の身体になることが必要だと思ったのだ。
そうすれば違和感なく社長とひとつになれると。
「私は女性になれないんですか…」
「手術したとしても、おそらく悪い影響のほうが強く出ると思う。たとえば身体が変わってしまうことによって、直美さんの心が壊れるとか」
確かにそこまでの覚悟があったわけではない。
女性の後ろ姿が好きで、それを自分で体現し始めたことがきっかけにすぎないのだ。
決して身体を女性にしたいわけではない。
確かにその通りだ。
最近の自分が、本当の自分でなかったような気さえした。
「お話をうかがっていて、自分でも意識していなかったことを指摘してもらったような気がします。すごく納得できました。私、今のままで頑張っていこうと思います。本当にありがとうございました」
「北原には僕から話したほうがいいかな?」
「いいえ、私から話します。ありがとうございました」
診察室から出るときに、最後に確認しておきたいことを聞いた。
「もし、やっぱり女性の身体になりたいって思ったら、また診察に来てもいいですか?」
「うん、もちろん。でも結果は同じかもしれないよ。他の医者に行ってもらっても僕はぜんぜん気にしないからね」
「いいえ、ぜひ南先生に診てもらおうと思います」
僕は自然な笑顔で診察室を後にした。
こんなに素直な気持ちでこの部屋を出たのは今日が初めてかもしれない。


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