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フェチ(29)

その日、早めに仕事を切り上げて、紹介された医者に行った。
病院と言っても病院らしい雰囲気はなく、お洒落なエステのような感じだった。
「北原から紹介で来た人だね。えっと塚本直彦さん、かな?」
「はい、今は直美と名乗ってますけど…」
「あ、そのほうが今の君にあってるね。で、直美さん、本当に男性なの?本当の女の子に見えるけど」
「はい、戸籍は男です」
「ずっと女性の恰好をしてるの?いつ頃から?」
「大学からです」
その日はそんな話をしただけで終わりだった。

「それじゃまた1週間後に来て」
「えっ、これだけですか?」
「そうだよ。まずは君の状況を知ることからだ。そんなに簡単に性同一性障害なんて診断できるもんじゃないんだからね」
「女性ホルモンとかはもらえないんですか?」
「必要ならば出すが、まだ早いね」
「ええ、そんなぁ…」
医者が次の患者を呼ぶように看護師に伝えた。
だから僕は診察室から出ていかざるを得なかった。

次の日、社長に診察の様子を報告した。
「なんだ、南のやつ、そんなこと言ってやがるのか。あいつ、変に真面目なとこがあるからな。ひと言言っておいた方が良さそうだな」
そう言って、電話をかけた。
しかし診察中ということで話せなかった。
社長の「あとで電話しておくから」という言葉を信じ、その日は普通に仕事をした。

次に診察に行ったときにすぐに南先生から言われた。
「北原は急いでたみたいだけど、直美さんも早い方がいいのかな?」
「あ、はい」
「でも性別適合化手術をしてから後悔しても遅いんだからね。直美さんが女性になっても大丈夫なのかを見極める必要があるんだ」
「それはそうでしょうけど」
「だからいくら北原の頼みでも、直美さんのこれからの人生のためにもきちんと診断するから、そのつもりで」
「そうなんですか……」
「何だか不満みたいだね。そう言えば、北原の奴、直美さんが法的に女性になれたら結婚したいと言ってたけど、それって本当?」
「えっ!」
初耳だった。
まさかそんなふうに考えてくれてたなんて。
僕は喜びと照れ臭さで顔が赤くなるのを感じた。
「ははは、どうやら本当らしいな。それじゃなる早で診断したほうがいいわけだね」
「はい、お願いします」

そんなやりとりがあったが、女性ホルモンを処方されるわけでもなかった。
僕のこれまでの人生をただただ話すだけだった。
僕のこれまでの人生と言っても本当のことを話すと性同一性障害でないと診断されそうな気がして、適当に脚色を入れた。
中学時代にふざけ合っていた友達を初恋の相手のように話したり、男の制服に違和感を感じていたように話した。
実際はそんなことはまったくなかったのだが、そのほうが性同一性障害に診断されるだろうという計算があったからだ。
南先生はそれを聞きながら、時々メモは取るが、にこやかに聞いているだけだった。
そんな話ばかりを話して、あっという間に4ヶ月が過ぎた。
この4ヶ月間、自分の中で作り上げたストーリーをもとに矛盾のない話ができたと感じていた。
間違いなく性同一性障害と診断されると。
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