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フェチ(23)

秋が明けると秘書として仕事をこなすだけの毎日が待っていた。
僕は淡々と仕事をした。
社長は前の週に起こったことはまるで忘れてしまったように見えた。
僕もあえてそのことには触れようとしなかった。
それでも時々は昼食をともにすることがあった。
そんな機会に僕は北原社長自身のことをいろいろと聞いてみた。
もちろん社長個人のことが気になっていたからだ。
最初はそんな質問をしてくる僕に訝しげにしていた社長も答えてくれるようになった。
おかげで少しずつだが、北原社長のことが分かり始めていた。


社長は女装した男が好きなんだそうだ。
さらにいいのは完全に性転換したのがいいらしい。
しかもどう見ても女にしか見えないのが好きとのことだ。
それだったら純女でいいだろうと思うのだが、そこは決定的に違うらしい。
やはりモト男というところで不可欠なのだそうだ。
自分の嗜好を棚にあげるのも何だが、人の嗜好というのは本当に難しい。

そしてどうやら社長にとって、僕は好みのタイプにピッタリらしい。
確かに女装しているときに、女性として扱われるのは嫌な気はしない。
しかし僕の性的嗜好は女性だ。
女性として働いていても、そこは変わらない。
変わらない、…はずだ。
たぶん………。


その日はかなり遅い入社面接のある日だった。
ほとんどの新卒はすでに行き先が決まっているはずだ。
しかし、この時期になっても決まっていない者がいる。
あるいは決まったものの、まだ迷っている者がいる。
そんな人物にはまれに優秀な者がいたりする。
それほど大きくないうちのような会社にとって、そんな機会を狙って優秀な人材を採りたいのだ。
社長は相変わらず出席するだけという約束で面接に参加していた。
したがって社長と業務の相談をするために僕も面接会場となった会議室に顔を出すことがあった。
だから否応なしに面接を受けに来た者と顔を合わさざるをえなかった。
そして、そんな中のひとりの顔を見て驚いた。
棚瀬瑞希だった。
僕は瑞希の顔を見て驚いたのだが、それを表情に表さないよう努めた。
しかし、瑞希にも僕のことをしっかりと見られてしまった。
気づかれたかな?
今の僕は完全に女装しているから、普通の者からは気づかれないはずだ。
しかし、瑞季とはコスプレでのつき合いだった。
男の姿はもちろん女装も何度も見ている。
瑞季にとっては、女装の僕の方が普通だったかもしれない。
僕だと気づかれた可能性はかなり高いように思えた。

その日、面接がすべて終わったころ、予想通り瑞季からメールが届いた。
『今晩、部屋で待ってるわ。絶対に来てね。』
そう書かれていた。


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