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フェチ(22)

残された僕たちには話題はなかった。
智美さんが最後にあんなことを言ったものだから余計に話すことがなかった。
「智美さんも帰ったし、もうお開きにしません?」
僕は早くひとりになりたかった。
だからそう言ったのだが、返ってきた返事は僕の期待しないものだった。
「もう少しだけ上のバーでつき合ってくれないか」
北原社長がそう言った。
さすがにそのまま帰るのは余計に気まずいと思い、僕は応じることにした。
「あ、そうですね。そうしましょうか」
しかし、バーに行っても、社長からは何も言われなかった。
ただ並んで座って、酒を飲んでいるだけだ。
僕が社長を見ても、社長はグラスを見ているだけだ。
全然僕の方を見てくれなかった。
何か言ってくれればいいのに…。
そんな状況に僕はイライラしていた。
そしてそんな自分に驚いた。
僕は何を期待しているんだろう?
もしも言い寄られたりしたらどう応えるつもりなんだろう?
男どうしでありえないと思う反面、流れに任してそういう関係になっても仕方ないんじゃないかと思いもした。
わずかだが社長を受け入れようとしている自分がいるのは事実だ。
いずれにしても社長が言ってくれないと、自分の気持ちがまとまらない。
好きなら好きと言って欲しい。
好きと言わなくても僕に何か言って欲しい。
そんな悶々とした時間を過ごした。
社長は僕がそんな気持ちだとは全然気がつかない様子だ。
無言の時間が少し過ぎたあと、急に社長が僕の方を向いて言った。
「川瀬くんがいなくなったが、もう君だけで十分やっていけるだろう。来週からよろしく頼むよ」
それだけ?
それだけを言うためにバーに誘ったの?
僕は怒りすら覚えた。
社長と別れたあと、僕の胸の中には何とも言えないモヤモヤとしたものだけが残った。

その夜、僕はなかなか寝付けなかった。
好きなら好きって言えばいいのに…。
もし本当に言われたら、どう応じたか分からない。
でも何か言って欲しかった。
そんな心理の中、僕はいつの間にか自分のモノを扱いていた。
頭に思い描いていたのは北原社長だ。
そんな自分の心理と行動が異常だとは思わなかった。


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