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フェチ(16)

男性は黙って車を走らせた。
何も喋らない。
僕も口をきかなかった。
でも頭の中は不安でいっぱいだった。
どうしてバレたんだろう?
どこに連れていかれるのだろう?
もっと必死で抵抗して車に乗らなければよかったのに…。
そんなことを考えていた。

10分ほど走っただろうか。
車は病院の駐車場に入って行った。
本当に医者に連れていかれるとは思ってなかった。
「本当に怪我はありませんから、いいです」
僕は絶対に車から降りないと決めていた。
「君みたいな人でもちゃんと診てくれる病院だから」
男性の言った「君みたいな」というフレーズが気になった。
おそらく「ニューハーフでも」とか「女装者でも」とかいう意味だろう。
僕はそんな言い方をされることに少し腹が立った。

「ふぅ、仕方がない。君はなかなか頑固そうだね。それじゃもう少し話をしやすいところに行こうか」
男はすぐに諦めて、病院から出て行った。
そして病院からさらに数十分走り、車は住宅街のある家の前で停まった。
それなりに立派な家だ。
「ここが僕の家だ。誰もいないから、遠慮しないで入って」
車を駐車場に入れると、そう言って、さっさと一人で家に入っていった。
絶対に思い通りになんかならない。
そう思っていたが、車に一人残されると、意地を張るのが馬鹿らしくなった。
ここで逃げることもできただろう。
しかし男性がどういう行動に出るのか何となく興味があった。
僕は男性が行った方向に歩いていった。

「やあ、いらっしゃい」
男性は嬉しそうに僕を招き入れてくれた。
通されたリビングにはコーヒーが置かれていた。
「とにかく座って」
僕はスカートを気にしながら椅子に座った。
「そんなに警戒しなくていいよ。別に襲ったりしないから」
襲う!
女装していても、自分が女だと思われることがあるなんていう自覚がなかった。
だから襲われるかもしれないなんて思いもしなかった。
男だと見破られることだけを恐れていたのだ。
男性が"そういう"趣味ならば襲われる可能性があるのだ。
目の前のコーヒーに睡眠薬でも入れられていれば思う壺かもしれない。
僕は警戒した。
「あれ?もしかして逆に警戒させちゃったかな?本当に大丈夫だって」
男は僕の目の前に座った。
「それより聞きたいことがあるんだ」
「私もです」
「あ、そうなんだ。それじゃ、君の質問から聞こうか」
「どうして私のことを見破ることができたんですか?絶対にバレない自信があったのに」
「なぁんだ、そんなことか。どんなものでも見る人が見れば、真贋は分かるものなんだよ、当たり前じゃないか」
「真贋………」
自分が贋物だと言われたようで腹が立った。
今そんなことで怒る場合じゃないとは分かっていたが。

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