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フェチ(15)

それから何度もエントリーシートを出したり、面接を受けに行ったりした。
しかしさっぱりだった。
卒業まで半年を切った時期になっても全然就職先が決まらない。
卒業に必要な単位を取ってしまっていたので、卒業することはできる。
しかしこんなことだったら単位をとらずに落第したほうがよかったのかもしれない。
そんなつまらないことすら考えてしまう。
自分の考えがどんどんネガティブな方向に向いてしまうのだ。

そんな自分の気分を何とかポジティブに変えたかった。
だから気分転換のために、久しぶりに女装しよう。
そう考えて、すぐに行動を起こした。


久し振りに女性の服を手に取るとそれだけでドキドキしてきた。
しばらくの間、忘れていた胸の高まりだった。
これだけでも気分転換は成功だ。
久し振りの化粧もうまくいった。
さすがに一人で出掛けるのは気後れしたので、瑞希にメールを入れた。
できれば一緒に買い物でもしないかと。
しかし、瑞希からは何の反応もなかった。
きっと瑞希も就活なんかで忙しいんだろう。
仕方がない。
一人で行こう。
バレない自信はあるし、問題ないはずだ。
そう自分に言い聞かせた。

久し振りの女装外出でやったことはウィンドウショッピングだった。
レディースの服や下着を見てるだけで楽しかった。
買いたい物もいくつかあった。
しかし、買ってしまうと女装生活にまた突入してしまいそうな気がする。
就職が決まるまではまたのめり込むわけにはいかない。
だから、我慢して買わなかった。

男性から声をかけられることもあった。
お茶くらいはつき合った。
楽しい半日だった。
これで明日からまた就活を頑張れそうだ。
気分転換はうまくいったように思えた。


さて帰るとするか。
そう思い家路に着こうと横断歩道を渡ろうとしたときだった。
左折しようとした車に当たりそうになった。
僕は尻餅をついてしまった。
すると車が急停止した。
「大丈夫ですか?」
車から男性が降りてきて、僕を気遣ってくれた。
「あ、はい、大丈夫です」
僕はスカートを気にしながら立ち上がった。
別にどこも痛みはなかったし、怪我をしている様子はなかった。
「後で何かあったら大変ですから、とりあえず病院に行きましょう」
そう言われて僕は初めて運転していた男性の顔を見た。
「あっ…」
思わず声を出してしまった。
その男性は、以前面談していた建築設計会社の人だった。
僕の話した恰好いい女性の話にのってきてくれた人だ。
男性も僕の反応で思い出したようだ。
「君はこの前うちの社を受けた確か塚本さん…だったかな?」
どういうわけか覚えられているようだ。
それにしても女装しているのにバレるとは思わなかった。
ここはシラを切るしかない。
「あ、違います。人違いです」
しかし男性は僕の言葉を無視した。
「いや、そんなことより、怪我がないかのほうが心配だ。とりあえず僕の車に乗って」
逃げようとする僕の腕をつかまれ、僕は強制的に男性の車に乗せられた。


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