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フェチ(13)

「それじゃ行くわよ」
「えっ!この恰好で?」
「コミュがあるから、こんな恰好したんじゃない。当たり前でしょ」
僕は瑞希に引っ張られるように、外に出た。

会場に着くまでの人々の視線はつらかった。
何してんだ、こいつら?
そんな蔑んだ視線が僕を責めた。

やがて、これだけ化けていると僕だと分かるはずがない。
そんな開き直りのような気持ちになることができた。
そうなると、少しずつ堂々と振る舞うことができるようになっていた。
やがてコスプレの会場に着くと、男でも女性キャラクタになっている奴らがいた。
奴らは自分が男であることを隠さない。
むしろそういうシチュエーションを楽しんでいるように思えた。
そんな中にいると、僕も普通に振る舞えることができた。
あえて女性らしい仕草なんかしなくても、皆から可愛いと持ち上げられた。
すごく居心地が良かった。
その会場の中で、僕は充分楽しむことができた。
「ねっ、楽しいでしょ?また来ようね」
そんな瑞希の誘いを僕は断ることができなかった。

コスプレが好きと言っても、瑞希は毎週やっているわけではない。
コスプレのイベントがあるときだけだ。
瑞希に誘われるのはそういうイベントのあるときだった。
最初の体験で充分に楽しいことが分かっていたし、僕は喜んで参加した。
時には瑞希より積極的だったかもしれない。
雅臣とは疎遠になり、瑞希との時間が多くなっていた。
コスプレは基本的にはゴスロリだったが、時にはセーラームーンとか女性キャラクターのコスプレもした。
自分と全く違うキャラクターを演じることが楽しかったのだ。

瑞希と一緒にいないときも僕はコスプレのことばかり考えていた。
コスプレに比べると普通の女装はそれほど大きな刺激はなかった。
だからといって女装をしなかったわけではない。
女装は確かにしていた。
コスプレのための服や道具を買うときなんかは女装が必須だった。
そのほうが心置きなくコスプレのための物を選べるからだ。
男の恰好のまま、女性の服を選んでいたら周りの目が気になって買い物に集中できない。
買い物に集中するための女装だ。
後ろ姿を撮るためとか、女装することそのものが目的だったころとは少し違う。
コスプレの準備をするための女装だったのだ。

コスプレのときは地声でも問題なかった。
だが、さすがに街中で女装しているときはそのままの声は出しづらい。
だから女の声を出せるように練習した。
やがて練習の甲斐もあって、女性の声も出せるようになった。

コスプレのあるイベントのとき、初めて女性の声で話したときの仲間の顔は忘れることができない。
まさに呆気にとられたという表情が並んでいた。
僕と瑞希は腹を抱えて笑い転げたほどだ。

それまでも結構持ち上がられていたと思うが、そのときからはアイドルのように扱われるようになった。
コスプレは自分の存在価値を確かめることができる唯一の場所だった。
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