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フェチ(8)

「これだけ綺麗になったんだ。外に出てみないか?」
雅臣がそんなふうに誘ってきた。
僕は驚いて彼の顔を見た。
「いくら何でも外出は無理だって」
少し間をおいて僕はそう言った。
あまりにも驚きすぎてすぐに言葉が出てこなかったのだ。
「しかし歩き方とか完璧女なんだろ?だったら誰も男だなんて思わないって」
「それにしても無理だって。第一、声を出したらバレるだろうが」
「それもそうだけど、もったいないだろう。それだけ綺麗なのに」
「綺麗」と言われて嬉しかった。
そのせいか少しその気になった。
確かに自分でも綺麗になったと思うし、他人から言われるとマジで嬉しい。
「なあ、本当に綺麗になったと思うか?」
僕は確認せずにはいられなかった。
「ああ、絶対美人だって。その辺の女なんか目じゃないって」
そこまで言われたら仕方がない。
「そんなに言うんなら外出してもいいけど、条件言っていいか?」
「何だ?できることだったらいいぜ」
「僕のそばにずっと一緒にいてくれる?」
「ああ、もちろんだ。これだけ綺麗な女性がツレだと思われるんだからな」
雅臣は満面の笑みを返してきた。
僕のほうは渋々承諾したように言ったが、気持ちは外出に向かっていた。
僕の中に多くの人に見られたいという欲求が出てきたのだ。


外の空気は部屋の中とは全くの別物だった。
下着に直接空気が当たる感じがするのだ。
まるで下着丸出しで歩いているような錯覚すらしていた。
スカートって何て頼りないんだろう。
僕はそう思いながら緊張していた。

「やっぱり帰ろうぜ」
僕は小声で雅臣に言った。
「何だよ、せっかく出てきたのに勿体ないだろ」
「でも恥ずかしいし」
「大丈夫だって。お前は綺麗だ。自信持っていいぞ」
「でももしバレたら、お前も嫌だろ?」
「心配するなって。そんなに綺麗なんだから、バレるわけないって」
「そうは言ってもな…」
「それよりどこかで飯でも食べないか?腹減ったし」
「いきなり外食はちょっと…」
迷う僕の肩を抱いて、雅臣は目の前の洋食屋に入った。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
店に入るとウエイトレスが水を持って注文を聞きに来た。
「生姜焼き定食とレディースセット」
雅臣は僕に聞くことなく注文した。
「生姜焼き定食とレディースセットですね」
ウエイトレスは形だけの確認をして、マスターらしき男に注文を伝えた。
「何だよ、レディースセットって?」
「知らないよ。何か食いたいもん、あったのか?」
「いや別に」
「ならいいだろ。お前は話せないと思ったから、決めてやったんだから」
「お前、この店、よく来るのか?」
「まあな、女と来たのは初めてだけどな」
雅臣にとって僕は完全に女性と認識されているようだ。

出て来たのはグラタンとスープとサラダだった。
それにオレンジジュースがついていた。
量が少し少なめだったが、まあまあ美味しかった。
代金は雅臣が払ってくれた。

「あとで払うからな」
「いいって。デートでは男が払ったほうが恰好いいだろ」
こいつにとって僕は完全に女性のようだ。
しかも完全にデートモードに入っている。
「僕は男だぞ」
「実は俺、男の娘って結構好きなんだ。本物の女よりも好きかもしれない」
驚いた。
こいつってそういう趣味があったんだ。
ちょっと警戒したほうがいいかもしれないな。
嬉しそうに歩いている雅臣の横顔を見ながら、僕は警戒心を強めていた。
13:19 | フェチ | comments (2) | trackback (-) | page top↑
フェチ(9) | top | 更新できずにごめんなさい

コメント

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筆が動いてよかったですね
by: てる | 2015/09/07 01:41 | URL [編集] | page top↑
#うわぁ…
また嫌な状況でカミングアウトが来たものですねぇ…。
このままだと、なし崩し的にあんな事やこんな事までさせられそうですね…。
今でさえ、『綺麗』と言われて逆らえない状況なのに…。
今後の展開が楽しみです󾬌
by: 藍 | 2015/09/07 08:00 | URL [編集] | page top↑

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