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フェチ(6)

「こら、直彦。隠れるな。この女性はお前に化粧してもらうために来てもらったんだ」
「化粧?」
僕は恐るおそる顔を出した。
「せっかく女の服を来たのに、化粧しない手はないだろ?」
「そりゃまあそうだけど…」
僕らのやりとりが落ち着いたと見るや、その女性が手招きした。
「それじゃここに座ってくれる?」
僕は覚悟を決めて女性の前に座った。
「あなた、化粧は初めて?」
「もちろんです」
「すごく綺麗な肌してるわ。これだと結構化粧乗りが良さそうね」
そんなことを言いながら、その女性は僕の顔の上にいろんなものを塗りたくった。
すごい匂いだ。
女臭いっていうと失礼なんだろうか。
でもその匂いのせいで僕の気持ちも女性に近づくような気さえした。
「髪型はロングの方がいいでしょ?初めての女装の男の人には大体ロングが人気だから」
頭の上にウィッグを被せられた。
「はい、出来上がり。どう?」
女性が僕に手鏡を渡してくれた。
そこに映っていたのはひとりの女性だった。
「すごい………」
思わず漏らした言葉だった。
僕は鏡の中に見入っていた。
「気に入ってもらえたようね。それじゃ私は帰るわね」
「恵子さん、ありがとうございました。この御礼はまた」
「西野さんはいつもそれだから。期待しないで待ってるわね」
恵子と呼ばれた女性は化粧道具を片付けてサッサと出て行った。

僕は全身を見るために、少し大きな鏡の前に立った。
全身を映しても女性に見えた。
興奮するより、嬉しさが勝っていた。
僕でもちゃんとすればここまで綺麗になれるんだ。
それが分かったことがすごく嬉しかった。
これだと自分にとって一番魅力的な女性の姿を実現できるかもしれない。
そんなことを考えながら、自分の姿に酔っていた。

雅臣が僕の背後に立った。
「予想通り綺麗になっただろ?」
そう言って雅臣が僕の肩に手を置いた。
鏡には男に肩を抱かれた可愛い女性が映っていた。
彼の身長は180センチ近くある。
僕は162センチしかないから彼よりずっと低い。
そんな構図が僕を可愛い女性に見せてくれるようだ。
わたしは女の子なんだ。
僕は無意識にそう考えていた。
自分の一人称が変化していることにはまったく気づいていなかった。


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